【インタビュー】ILYOSS白水悠、コロナ渦で追究した「ライブを前提にしない作品創り」

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白水悠(B)、中平“JIM”智也(G)を中心に活動するI love you Orchestra Swing Style(以下・ILYOSS)が3rdアルバム『Sweet Spare』を2021年3月24日(水)に発売する。ILYOSSとは、4人組インストバンド・KAGEROのリーダー・白水が、サイドプロジェクト的に結成したI love you Orchestra(以下・ilyo)から暖簾分けした形で活動を始めたバンドだ。

前作の2ndアルバム『Smoky Valley』からは、女性シンガーmahinaをフィーチャーした「Night Distance」がロングヒットとなり話題に。約2年ぶりとなる今作は、新たなボーカリストとのコラボ楽曲を3曲収録しており、さらに多くのリスナーを獲得しそうな心地良く聴き応えのあるアルバムとなっている。2020年に様々な名義のプロジェクトで作品を発表し続けた白水は、アーティストとしてこの1年をどのように感じながら過ごし、これまでになく外向きなアルバム『Sweet Spare』の完成に至ったのだろうか。

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■そうじゃないと音楽家として生き残れなかった

──2020年に白水さんがリリースした、色んなプロジェクトの作品を聴かせてもらいました。どれも内向的な作品だった気がするんですけど、本人はどう思ってます?

白水:作品のジャンル的な毛色が内向的っていうのはあるかもけど、主には「家で聴く音楽」を創ったっていうか。ここ数年は年に100本ぐらい、3日に1回くらいライブをしてきたから、あの頃はやっぱり根源的な音源制作っていうより、「こういうライブをしていく為にこういう作品が必要」っていう、ライブから逆算して作品を創ることが多くなってて。それが2020年はコロナで一気になくなって、4月からちょうど半年かな、まったくライブができなくて。自分の中では4月の時点で、この状況はあと1年は続くなって判断してたから、「ライブを前提にしない作品創り」って方向に完全に切り替えましたね。そのときに一番最初に取り掛かったのがSRMZCEK(KAGEROのメンバー菊池智恵子(Pf)とのユニット)だったのかな。KAGEROも15周年のワンマンが4月以降のが全部飛んじゃって、でも何もしないのも気持ち悪いし。作りたい作品のイメージはあったんで、すぐに智恵子に声かけて。それとILYOSSの「Be There feat. Hiro-a-key」。その2つを同時進行してたような記憶がありますね。

──「Be There feat. Hiro-a-key」は、レーベルorigami PRODUCTIONSがアーティスト救済のために立ち上げた「origami Home Sessions」から生まれた曲?

白水:そうです。origami所属アーティストさんが、自分の音源をフリーで使ってくださいっていう。めちゃくちゃ良いプロジェクトだなと思って。これはその時ちょうどやりたかったイメージと完全に合致してる感覚があって。アカペラでアップされていたHiro-a-keyさんの「Be There」を、コードとか構成とか自分なりにアレンジさせて頂いて創りました。「Be There feat. Hiro-a-key」を創った最初のきっかけは、吉祥寺NEPO(白水がディレクターを務めるライブハウス)のチャリティー作品(NEPO、ヒソミネが中心となり集まった全67組のアーティストの楽曲を5枚組のアルバムにした『Fourth Place』)だったのかな。とにかくあの頃は、ライブができない分、作品をたくさん創ろうって。

──そんな中でkulkuriという名義で『輪(りん)』というアルバムもリリースしていますよね。

白水:みんなも気持ち的に不安な時期だったじゃないですか?今以上に先行きも見えなかったし、だからヒーリングじゃないけど、そっち側の音楽もちょっと創ってみようかなって思って。今までそんな音楽を創る時間もなかったから。今までどうしても色んなものを背負って創る場面も多かったっていうかさ。「KAGEROの6枚目!」とか「ilyoの3rdアルバム!」とか、そういう気負いと共に創ったものが当たり前に多かったけど、色んなスタンスでやってみようかなって。とにかく時間だけはめちゃくちゃあったから(笑)。

──なるほど(笑)。じゃあ、コロナ禍だからってどんどん精神世界に深く入っていくみたいな感じだったわけでもなく?

白水:う〜ん、根本はすごく、今まで通り元気だったよ。

──人に聴かせるというよりは自分の世界を突き詰めていくつもりだったのかなと思ったんですけど。

白水:あ〜、その感覚でやっていたプロジェクトは、主にI love you Aloneの作品かな。逆にSRMZCEKなんかは「こういうのがハマるかな?」っていう感覚というか、完成形のイメージを基に創ってて。全般的にSpotifyのプレイリストをしっかり意識する実験っていうか。kulkuriの『輪』も、アメリカのAmazon Musicで割ととんでもない回数再生されていたり、TikTokで月に100万再生とか。めちゃくちゃ再生されてるんだよね。

──へえ~!『輪』って、曲名も全部周波数だし、もはや音楽というよりは概念化してるというか。

白水:ははははは(笑)。

──こういう作品を世に出すというのは、2020年はどういうマインドで生きていたんだろうって気になったんですよ。

白水:ミュージシャンとしては、変な言い方だけど、心地良い部分は正直かなりありましたよ。それまでずっとツアーをバンバンやったり、海外でのライブとか、ひと通り色々やらせてもらってきて、2018、2019年ぐらいから、そこまで「ライブがないと生きていけない」っていう感覚でもなくなっていて。ここ2年間ぐらいは「じっくり色々な作品を創りたいな」っていう思いがずっとあったから。創作と向き合える時間がめちゃくちゃいっぱいあるっていうのは、すごく心地良かった。さっきも言ったように、サブスクもすごく意識できたしね。

──これまではそれほど意識してなかった?

白水:どうしてもそれまではCDメインの思考で、サブスクっておまけみたいな感覚だったっていうか。特にロックバンドのバンドマンってそういう人多いと思うんだけど。サブスクってリリースするだけならすごくイージーだけど、世界規模で色々把握しておかないと全然回らないからさ。そのあたりのことをたくさん実験する時間ができて、レーベルともそういう共有をする事ができたのが2020年でしたね。

──サブスクでどんな音楽が再生されるのかを研究したということでしょうか。

白水:いや、やっぱりいろんな音楽を聴きましたよね。「今」の音楽っていうか。これまでなかなか聴かなかったりしたんだけど。いわゆる今流行ってる音楽、(「うっせぇわ」の)Adoちゃんとかまで聴いて「おお、面白いな」とか(笑)。そういう「今」の音楽を聴く時間もすごくできたし、例えばSpotifyはプレイリスト文化だから、「こういうプレイリストをこれぐらいの人が聴いてるんだなー」とか。ただ、そこに完全に合わせに行っちゃうとそれは自分じゃなくなっちゃうから、「この毛色なら自分もかするフィーリングはあるな」っていう感覚を基に創ったりとか。SRMZCEKなんかは特にそんな感覚だったかもしれない。アンビエントとかね、眠るときの「Sleep」系的なプレイリストが結構熱かったんで、これは自分の引き出しの中にも近いものあるなーって思って創ったところはありますね。

──バンドマンというよりは、トラックメーカー的な立ち位置での活動が中心になってたというか。

白水:そうだね。トラックメーカー、ミュージシャン、音楽家的な思考がより強まった時期だったかもね。でも、そうじゃないと音楽家として生き残れなかったから。「バンドマン」としてはなかなかね、特に最初のうちは、集まることもできなかったから。KAGEROのメンバーとも半年くらい会ってなかったもんね(笑)。それまでは毎週必ずスタジオに入っていて、ライブも最近はそこそこあったしさ。16年やってて、半年会わないなんていうことはもちろんなかったからね。

──今回の『Sweet Spare』って、これまで白水さんが創ってきたアルバムの中でも特に広く世の中にアプローチできそうな作品だなと思うんですよ。

白水:うん、そうですね。そうなって欲しいね(笑)。

──今作もサブスクで聴かれるものを意識しているということ?

白水:う〜ん、創作時はそこまで「売れるもの」っていうか、聴かれるものに寄りまくったわけじゃないよ(笑)。だけど歌も入れていることもそうだし、自分の持っている引き出しの中で、パイの大きそうなところにアプローチできる引き出しを使った感じですね。

──もともと、ILYOSSって、その名の通りスウィング・スタイルな曲をやるバンドとして生まれたわけじゃないですか?

白水:最初は、単にilyoの曲をアコースティックっぽくやるためだけに作って。ただそれを進めてくうちに、それが当初のコンセプトがあんまり関係なくなったっていういつものパターン(笑)。でもそれぐらい、このプロジェクトは色んな可能性秘めてるんだなって。前作の「Night Distance feat. mahina」の時に気づくというか。「自分たちのこの引き出し、結構戦えるんじゃん」っていう感覚が、僕とジム(ギターの中平智也)の中で生まれたんだよね。



──「Night Distance feat. mahina」はロングヒットになっているわけですけど、白水さんの中では、ある程度これぐらいの反響はあるだろうって目論んで出した曲だった?それまでボーカルを入れた楽曲をリリースしたことはなかったですよね。

白水:いや、創ってる時のスタンスは他の音楽と変わらないし、反響なんて最初は全然考えてないよ(笑)。歌を入れても入れなくても、自分が良いかどうかというのが、すごく線引きになってるから。ただ、「Night Distance feat. mahina」はとにかくmahinaがめちゃくちゃ良かったから。だから売れたんじゃない?っていう気持ちはちゃんとあるよね(笑)。僕がどうこうってというよりは(笑)。自分はいつも通り、他のプロジェクトで曲を創ってる時と変わらないよ。今回も、シンガーがみんなすごく良いから評判が良いのかなっていう。あと、「歌ものってパイが大きいな」っていうのは改めて感じるよね(笑)。「インストって大変だな〜」みたいな(笑)。

──何をいまさら(笑)。

白水:まあ、それをあんま大して重く受け止めてはないというか(笑)。そりゃそうだろうなって思ってやってます(笑)。

──ただ、「Night Distance feat. mahina」が好評だったこともあって、新作で歌ものが増えたのは間違いない?

白水:そうだね。歌もの創ることへの抵抗が薄くなったよね。それに、最初に創った「Be There feat. Hiro-a-key」がすごく良くできたというのもあって。先に配信の方で出してたんですけど。

──この曲はひと際洗練されてる感じですよね。

白水:「Night Distance feat. mahina」で少しね、感覚を掴んだのかもしれない(笑)。いろんなプロジェクトをやらせてもらえてるからこそ、1つ1つのプロジェクトで振り切りやすい。「もうここまでいっちゃえ!」みたいな。

──KAGEROでもilyoでもこれはやらないだろうし、ILYOSSというプロジェクトの位置付けがハッキリ決まってきたのかなって。

白水:う〜ん、でもまたilyo系は作品創る事にコンセプトはその時々で色々変わってくると思うけどね(笑)。今までもあんまり固定できた事ないし(笑)。全部さ、音楽の「ジャンル」が違うだけだから。料理も、例えば和食だったり、中華だったり、ジャンルが違うだけじゃん。その料理人の舌は同じ、っていうか。判断基準とかセンスとか。

──でも、1つの店で色んな料理を出す店もあるじゃないですか?それをやらないところが、すごく律儀ですよね。

白水:あ〜、それができる人ってすごいなと思うんですよね。僕はやっぱり色んな専門店を出したくなっちゃいますね。お店の名前、屋号を変えることで振り切れるというか。

──ilyoってなんでもありな感じがあったから、その中で今回はこういう洗練された音楽ができました、と言ってもそれはそれで受け入れられたと思うんですよ。

白水:僕のことを元々ずっと知ってる人だったらそれでいいかもだけど、初めて新作を聴く人が昔の作品とか聴くと混乱するかなと思って(笑)。そういうのも少し意識してるかもね。

──なるほど、確かに今同じ名義で1枚に入れてたら……

白水:いや、もうわけわかんないよ、たぶん(笑)。初めての人もそうだし、もともとのコアなお客さん達からしてもさ、プロジェクトが分かれている方がいろんな音楽を受け入れやすいんじゃないかなって思うんだよね。「こんなのKAGEROじゃない」「こんなのilyoじゃない」って捉えなくて良いというか。それぐらいの親切心は持って創ってるつもりだから(笑)。

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